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バタバタ茶とは?富山県朝日町に残るちょっと変わったお茶の風習

バタバタ茶とは?富山県朝日町に残るちょっと変わったお茶の風習

富山県朝日町、その中でも蛭谷(びるだん)という地区には、「バタバタ茶」というお茶の風習が残っています。富山県出身者でも知らない人も多い、知る人ぞ知る風習です。どのような風習なのか、お茶を作っている方にお話を伺ってきました。


日本のお茶文化と言えば、茶の湯と呼ばれるお抹茶をいただくものが代表的ですが、その他にも全国各地には独自のお茶の風習が残っていることをご存知でしょうか。

その中の一つが、富山県朝日町で飲み継がれて来た「バタバタ茶」。先日東京で、そのバタバタ茶を体験できるイベントがあると聞き、富山県のアンテナショップ「日本橋とやま館」に行ってきました。

筆者も初体験のバタバタ茶。さてどんなお茶なのでしょうか?朝日町でお茶の生産に携わる朝日町商工会統括参与の平木さんに、いろいろと教えていただいたことをまとめてみました。

バタバタ茶とは?

(バタバタ茶)

バタバタ茶は、富山県下新川郡朝日町という新潟県との県境の町にある蛭谷(びるだん)地区に伝わるお茶の風習です。

のちほど詳しく紹介しますが、使うお茶は、日本では珍しい黒茶。煮出した黒茶を茶椀に入れ、2本がくっついた状態の茶筅をお茶の中で振り、泡立ったお茶を飲むというもの。

「バタバタ」という名前は、茶筅をバタバタと左右に振る仕草からきていると言われています。茶筅を使って泡立てて飲むお茶は「振り茶」と呼ばれ、沖縄県や島根県の一部にも残っている地域があるようです。

さて、このバタバタ茶、単にバタバタと泡立てて1杯飲んでおしまい、というものではありません。それはなぜか?について、歴史や飲み方をみていきましょう。

長い歴史とその風習

朝日町蛭谷地区では、黒茶が古くから飲まれており、すでに縄文時代には中国から伝来していたと推定する学者さんも。

また室町時代から仏教の行事に用いられていたとされ、仏教儀式の一つとして「バタバタ茶」という風習が守り伝えられてきました。

現在でも、家族の月命日や結婚・出産等のお祝いの際に、親戚や近所の方、友人など15人から20人ほどが家に集まり、お茶会の楽しみ方として親しまれています。

お祝い時や月命日の時だけだから、頻度はそう高くないのかと思いきや、ご先祖様の月命日は結構頻繁にあり、さらにこの人数。ほぼ毎日、どこかしらのご家庭でお茶会が開催されているんですよと平木さんが教えてくれました。

バタバタ茶の道具

(バタバタ茶セット)

お茶会にはみなさん、上のようなマイ茶碗とマイ茶筅を持って集まります。

この茶筅、見たことありますか?「バタバタ茶筅」と呼びますが、2本がぴったりくっついていることから「夫婦(めおと)茶筅」とも呼ばれています。

なぜこの形になったのかについては、はっきりしていないとのことですが、泡が立ちやすいようにと考えられてきたのでしょう。穂先は長く、やわらかくしなり、外側に張り出すことなくほぼまっすぐに伸びています。素材には地元の煤竹(すすだけ)が使われています。

お茶椀は、お抹茶で使われるものより少し小ぶりで、「五郎八(ごろはち)茶碗」と呼びます。こちらも地元で作られたものだそうです。

バタバタ茶の入れ方・たて方

お茶会では囲炉裏(今はテーブルになりましたが)の上に煮出した黒茶をたっぷり入れた鍋を置き、鍋から茶碗にうつし入れ、バタバタ茶筅を使ってお茶を泡立てます。

朝日町の黒茶は、泡立てなければ飲めない、というわけではありません。そのままでももちろん楽しめますが、泡立てると味がまろやかになります。

そのまま飲む場合、煮出したら、暑いまま湯のみ茶碗で飲んでもよいですし、夏は冷やして麦茶のように飲むのもいいですね。

では、バタバタ茶をみなさんご自身でも楽しんでいただけるように、お茶の入れ方をもう少し詳しくご紹介します。

<黒茶を煮出す>

(バタバタ茶の黒茶を煮出しているところ)

まずは黒茶を煮出します。茶葉を木綿袋に適量入れて、やかんや茶釜、鍋などで1時間程度煮出す、というのが基本的な煮出し方。

わたしは木綿袋が身近にないので、スーパーなどで販売しているお茶パックを使っています。分量の目安は、大きめのやかん1つに対し、茶葉は20g程。

そして、仏教の儀式の一つとされてきたこともあり、煮出したお茶の一杯目は自分で飲むのではなく、まずは仏様にお供えします。仏壇がない方は、心の中でお供えするのもよいですね。

<茶筅でお茶を泡立てる>

(今回のイベントでお茶を泡立てていただきました。ベテランがたてる泡はふわふわ!)

仏様へのお供えが終わったら、煮出した黒茶を五郎八茶碗に注ぎ、バタバタ茶筅を左右に振りながら泡立てます。

茶筅が茶碗に当たってカタカタと音がするぐらい大きめに振ります。泡立ちをよくするには茶筅の先を底から少し上げたあたりで振るのがポイントです。

黒茶の表面がすべて白い細かな泡が覆うぐらいまで泡立てます。もともとは、泡が立ちやすくなるのでひとつまみの塩を加えていたそうですが、今は入れないことも多いとか。味にも影響するので入れるかどうかはお好みでどうぞ。

囲炉裏を囲んで床に座っている時は、膝の上に手拭いをひき、五郎八茶碗をおいて泡立てていましたが、テーブルの場合はテーブルの上でカタカタと泡立てます。

わたしもお茶をたてさせていただいたのですが、泡は立ったもののうっすら。朝日町バタバタ茶伝承館からいらしていたプロのたてた泡は、こんもりふわふわしていました。さすがです!

伝えられてきたバタバタ茶の飲み方

(お茶会の様子/バタバタ茶伝承館)

しっかり泡立ったお茶を、集まった人たちとの会話を楽しみながら、飲んでいきます。

お話ししながらということもありますが、1回のお茶会でみなさん10杯程度は飲んでしまうそう。必ずたくさん飲まなければいけないわけではありませんが、飲みやすく、胃にももたれず、気づけば飲んでしまっているんですね。

お茶うけには甘いものではなく、持ち寄ったお漬け物や、山菜の煮しめ(煮物)などが並び、それも楽しみの一つです。

お茶の風習、といってもかっちりした決まりがあるわけではありません。自分のペースで自分でお茶をたて、人々と話をしながらゆったりとした時を過ごすだけでいいのです。とてもリラックスした雰囲気ですよね。平木さんは、コミュニケーションの手段としても実はとても大切なのだといいます。

バタバタ茶によってお互いの距離が近くなり、お茶会の場ではもちろん、夜の火の用心で巡回する時に、気軽に家の窓を開けて安否を確認し合ったりができるのだそうです。

バタバタ茶に使う黒茶とは?

(富山県朝日町のバタバタ茶)

さて先ほどから何度か黒茶という名前が出てきていますので、ここでお茶の種類について簡単にお話しておきます。

黒茶を含め、緑茶、紅茶、烏龍茶等は、すべて同じお茶の木から採れた葉を使います。

種類の違いは発酵方法の違いから。
緑茶は発酵させない不発酵茶。紅茶はしっかり発酵させる発酵茶。烏龍茶は発酵を途中で止める半発酵茶。

バタバタ茶に使われる黒茶はなにかというと、後発酵茶と呼ばれる種類に属します。茶葉にもともと含まれている酵素による自然発酵を一旦止めて一定期間おき、更に自然界にある麹菌の働きで発酵させて作ります。

バタバタ茶に使う黒茶。平木さんによると、実は一時存続が危ない状況にあったそうです。

バタバタ茶の危機

昭和60年代に全国的に村おこしが盛り上がります。朝日町では、古くから残るバタバタ茶で村おこしを試みました。

ただ、当時バタバタ茶用の黒茶は朝日町では作られておらず、他の町で作られた茶葉を購入している状態。しかも、黒茶を作っていたのは富山県射水市旧小杉町の萩原さんのところ1カ所のみでした。

「朝日町の文化・風習として残していくためには、茶葉も自分たちの町で作っていかなければ」ということになり、村おこし協議会が町に畑を作ってお茶の木を何千本も植えました。

しかし簡単には育たず、一旦すべてダメになってしまったそうです。これではバタバタ茶が守れないと、町役場と蛭谷の地元の方々が出資して、再度お茶作りに取り組みます。唯一黒茶を生産されていた萩原さんから3年かけて指導を受け、ようやく製品が完成しました。

指導役となった萩原さんは、高齢を理由に黒茶の製造を止められたので、朝日町での黒茶の製造はギリギリ引き継がれたわけです。

富山県朝日町で黒茶(後発酵茶)はどう作られているか?

(バタバタ茶で使う茶葉。これを煮出します。見た目はワイルド!)

日本にはほとんどない黒茶。朝日町ではどのように作られているのでしょうか。実際にお茶の木を育て、茶葉の製造にも携わる平木さんが、黒茶の製造過程を熱く語ってくださいました。

<茶摘み>
バタバタ茶用の朝日黒茶は、「ヤブキタ」という緑茶によく使われる品種のお茶を使います。

通常緑茶では5月初旬から茶摘みが始まり、やわらかな新芽を摘み取りますが、黒茶では新芽は摘みません。そのまま育て、しっかり大きく育った茶葉を根元からカット。7月下旬から8月上旬にかけて刈り込みます。

(茶摘みの様子)

<裁断>
刈り込んだ茶葉を、加工しやすいように裁断して、太い枝などは取り除きます。

(茶樹を裁断する様子)

<自然発酵を止める>
お茶は茶葉に発酵酵素が自然に付着しているので、刈り取った段階から発酵が進んでしまいます。そこで、不発酵茶の緑茶と同様に、茶葉に蒸気を当て、一旦自然発酵をストップさせます。そして茶葉を丁寧に揉みながら冷まし、室(むろ)に入れます。室は、藁の筵(むしろ)に布をかけて、畳2枚分くらい大きさで囲いをしたものです。

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